英語短歌(361) |
巻き戻しも早送りもできぬ時間もて死ぬまで生くるそれだけのこと
having time that
we cannot recover
nor save up
we live until death―
that is it!
--Yukiko Inoue-Smith
SFの父とよばれるハーバート・ジョージ・ウェルズが発表した『タイム・マシン』で登場させたタイムマシンとは、時間を空間と同じように航行し、未来や過去へ移動するための装置。これは所詮は架空の話しであって、私たちは昨日やり残したことを昨日にもどって片付けることなどできない。
英語短歌(362) |
ひと鉢の冬のすみれを机(き)に置きて対(む)けばさみしもゆびの先まで
putting a pot
of winterviolets on the desk
facing them
I feel lonely even to
the tips of my fingers
--Yukiko Inoue-Smith
すみれの種類は多いけれど、日本人に最もなじみなのはタチツボスミレではないだろうか。わが短歌の師、寛太先生もタチツボスミレを多く詠んでいる。小さい一鉢の冬のすみれ、その小さい淡いむらさき色の花をみつめているとさびしさが湧く。
英語短歌(363) |
足の爪切りつつおもふ愛といふまことしやかに不確かなるもの
cutting
my toenails
I think of love
that is most probable
yet still uncertain
--Yukiko Inoue-Smith
常夏の島グアムは一年を通して天候が温暖であるせいか爪の伸びがはやい。なぜか爪を切るのはたいてい夜である。夜のとばりがおりた静寂の中で足の爪を切りながら、愛や恋なるものがいかに不確かで曖昧なものであるかをおもう。
英語短歌(364) |
帰り来て暗がりに座す糸切れし操つり人形のごときかたちに
returning home
I sit down in the dark
formless
as if I were a puppet
with broken strings
--Yukiko Inoue-Smith
疲れには、体の疲れ、精神的な疲れ、そして心の疲れの三種類がるという。人間関係を含めてすべてが複雑な私たちの日常生活では、体を動かさなくても、精神的なことが原因で疲れることが多い。動けないほど疲れてその場にしゃがみこむ。
英語短歌(365) |
さも赤くバラは咲きたり遠つ日のあくがれ色を重ぬるやうに
the rose is
blooming in deep crimson
as if it were
painted in the yearning color
of my distant memories
--Yukiko Inoue-Smith
どの角度から見てもバラは美しい。バラが花の女王と呼ばれるは、その香りと気品さゆえか。私はとりわけ真紅のバラを好む。赤は力強い色であり情熱の色でもある。あこがれをつめこんだ若いころの心の宝石箱の色も赤であったような気がする。