英語短歌(366) |
ひとつだけ欲しきものあり一心にヤモリを狙ふ猫を見てをり
there is one thing
I am dying for
I stare at
a cat absorbed
in catching a gecko
--Yukiko Inoue-Smith
壁に張りついているヤモリを一心に狙っている猫。多くの小鳥がとまっている木の下で小鳥が地面におりてきたら捕まえようとじっと狙っている猫。狙った獲物は逃がさないとばかりの意気込みに感心させられ、二つの場面に心を奪われて立ち尽くした。
英語短歌(367) |
なにゆゑにひとは生くると問はれたりわが悔ひ薪(たきぎ)となりて燃えゆく
the moment I was
asked what people live for
my regret turned
into a bundle of firewood
and began to burn
--Yukiko Inoue-Smith
人は何ゆえに生きるのか。人生最大のテーマを問われて答えに窮する。人間性を磨き人格を完成するために生きると言えば聞こえがよいが完成できるものではない。人は生命を滾らせて燃えつきるために生きるのだとおもう。
英語短歌(368) |
いさぎよく散らむが為に桜花(はな)は咲くおぼるる愛を知らざりわれは
I wish to surrender
myself to an earnest love just as
cherry blossoms gracefully
scatter to the wind at the moment
we are most grateful for them
--Yukiko Inoue-Smith
馬場あき子は、<夜半さめて見れば夜半さえしらじらと桜散りおりとどまらざらん>と詠んだ。桜は満開になるとあっという間に散ってしまう。そのため、桜の散り際の良さは死ぬことをいとわない日本の武士の潔さの象徴ともいわれる。
英語短歌(369) |
漆黒の闇にしづめば身も魂も溶けて入りゆく意識の底に
sinking into the murky
darkness of night
my body and soul melt
and flow down to the cave
of consciousness
--Yukiko Inoue-Smith
夜はうたのモチーフとしてよく使われる。夜長を例にあげるならば、<ねむらえぬ秋の夜長の胸ぬちになづさひひびく水の音かも>(佐々木信綱)など。秋でなくても、私は身も魂も溶けていくような心地がする夜の帳(夜の暗闇)が好きである。
英語短歌(370) |
勝ち負けの激しき国に生きながら深呼吸せり青空みあげて
win or lose that is
everything in this country
where I live
I breathe deeply looking up
at an azure sky
--Yukiko Inoue-Smith
弱肉強食とは、広辞苑によれば、弱いものが強いもののえじきとなる意。これは自然界に限ったことだけでない。人間の敵は人間であって、人間にとって人間ほど恐ろしいものはない。法と秩序に守られていると私たちは人間社会を賛美したがる。